アフェッティについてお話しするとき、私はよく「学びとの関係をつくる場所です」と説明します。
すると、
「学びとの関係をつくるって、具体的にはどういうことですか?」
と聞かれます。
その土台には、私と塾生との信頼関係があります。
ただ、信頼関係ができた結果、実際の授業がどう変わるのか。
今回は、数学の文字式を教えているときに気づいた、一つの実践をご紹介します。
aやbが出てくると、思考が止まる
中学生の数学で、最初につまずきやすいものの一つが文字式です。
それまでは数字を使って計算していたのに、突然、aやb、xやyが登場します。
数学が得意な人からすれば、aもbも数を表すための便利な記号です。
ところが、文字が出てきた瞬間に、脳がシャッターを下ろしてしまう子がいます。
「aって何?」
「どうして急に文字が出てくるの?」
説明を重ねても、なかなか理解につながりません。
そんなとき、私は好きな動物を聞きます。
猫、犬、鳥、うさぎ。
そして、aやbを、その子の好きな動物に置き換えて授業を進めます。
動物だから理解できた、だけではない
動物を使うと、文字式が具体的になり、理解しやすくなります。
同じ犬同士はまとめられる。
犬と猫は違うから、そのままではまとめられない。
こうした具体的な説明自体は、特別に珍しいものではありません。
今回、私が面白いと思ったのは、その先にありました。
aと書けば、一瞬で終わります。
筆記体のように流して書けば、さらに速く書けます。
りんごの絵を描けば、少し時間がかかります。
犬や猫、うさぎを描けば、さらに時間がかかります。
つまり、何を使って表現するかによって、私が書く時間が必然的に変わるのです。
そして、その「私が書いている時間」が、目の前の塾生にとって考える時間になります。
書く速度が、理解する速度をつくる
私がaと書いて、すぐに次の説明へ進めば、授業は速く進みます。
その速さが合う子もいます。
むしろ、テンポよく進めたほうが、全体の構造をつかみやすい子もいます。
一方で、その速さでは情報を受け取れない子もいます。
私が犬を描いているあいだ、目の前の塾生はそれを見ています。
「これは何を表しているのだろう」
「さっきの犬と同じだ」
「次は猫が出てきた」
その数秒間に、目の前の情報を整理できます。
私が意図的に説明を止めなくても、絵を描くという行為によって、自然な間が生まれます。
その間が、目の前の塾生の理解する速度と、私の授業の速度を近づけてくれます。
犬だからわかった。
果物だからわかった。
もちろん、それも一つの理由です。
しかし実際には、犬や果物を描くために生まれたゆっくりとした時間が、その子の理解を助けていたのかもしれません。
「待つ」のではなく、自然に速度を合わせる
塾生の理解を待つことは大切です。
ただ、私が説明の途中で黙って待つと、かえって緊張させてしまうことがあります。
「自分が答えるまで待たれている」
「早く理解しないといけない」
そう感じる子もいます。
しかし、私が犬や猫を描いている時間であれば、不自然な沈黙にはなりません。
授業は進んでいます。
私も手を動かしています。
それでも、授業の速度はゆっくりになっています。
急かすことなく、自然に考える時間を渡すことができます。
私は、この仕組みに気づいたとき、かなり再現性のある実践なのではないかと思いました。
一対一だからこそ、使い分けられる
もちろん、すべての塾生に動物を使えばよいわけではありません。
大切なのは、目の前の塾生の理解する速度に合わせることです。
aやbをそのまま使ったほうが理解しやすい子もいます。
筆記体のように流れる文字で、テンポよく進めたほうが理解しやすい子もいます。
果物の絵が合う子もいれば、動物を描きながら進む速度が合う子もいます。
私は、目の前の反応を見ながら、表現を使い分けます。
何を書くか。
どのくらいの速さで書くか。
いつ抽象的な表現に戻すか。
それを、その場で細かく調整します。
これは、一対一の関係性だからこそ成り立ちます。
一対一の授業だからこそ、目の前の小さな反応を見落とさず、その子に合わせて速度を変えることができます。
一斉授業の中で、全員に同じ表現を、同じ速度で提示するのとは違います。
私は、その子だけを見ながら、その子に合う時間の流れをつくります。
いつか、犬や猫はいなくなる
動物を使った授業は、ずっと続くわけではありません。
3か月ほど続けていると、私も塾生も少しずつ飽きてきます。
毎回、犬や猫を描くのが面倒になってきます。
「今日はもう、aでいいか」
そんな空気が自然に生まれます。
そして、その頃には、aやbだけでも理解できるようになっています。
犬や猫を使って簡単にしたからではありません。
犬や猫を描く速度で、文字式の考え方を何度も経験したからです。
その子が理解できる速度で積み重ねた結果、数学の合理的な表現にも少しずつ追いついていきます。
最初から速さを求めるのではなく、理解が育つまで、その子に合った速度で進む。
そうすれば、やがて速い表現も使えるようになります。
学びとの関係をつくるということ
学びとの関係をつくるとは、教科を無理に好きにさせることではありません。
すべての授業を楽しく演出することでもありません。
目の前の塾生が、どのくらいの速度なら考えられるのか。
どの表現なら、思考を止めずにいられるのか。
その反応を見ながら、私の側が方法や速度を変えていくことです。
aと書く。
筆記体で書く。
果物を描く。
犬や猫を描く。
何を書くかによって、授業の時間の流れは変わります。
その小さな使い分けによって、目の前の塾生は急かされることなく、自分の速度で学びに近づいていけます。
一対一の関係性があるからこそ、私はその子の反応を丁寧に見ることができます。
一対一の授業だからこそ、その反応を、その場で授業の速度や表現に反映できます。
信頼関係を、実際の授業の速度へ変えていく。
私は、これも「学びとの関係をつくる」ということの一つだと思っています。
投稿者プロフィール
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学習塾アフェッティ塾長が主に書いているブログ。
一般社団法人多様な学び舎 代表理事
(フリースクールエルート理事長)
・愛媛県フリースクール等連絡協議会 代表
・NPO法人えひめ放課後協力機構 理事
・(愛媛県校内サポートルーム設置事業における)
不登校児童生徒等支援連絡協議会 委員
静岡県生まれ。
2012年4月、愛媛大学在学中に「対話」と「自立学習」メインの学習塾「学習塾アフェッティ」を開塾。
2019年4月、平日昼間の学校以外の学び場の重要性に気付き、「フリースクールエルート」を開所。
2015年、“未来を切り拓く29歳以下ニッポン代表”としてNHK(Eテレ)U29で特集される。
2017年より愛媛新聞ピントゼミナールゼミ長として「次代を生き抜くメッセージ」の連載中。
第1回(2018年)・第2回(2019年)松山市人間力大賞受賞。
2018年、第32回人間力大賞(青年版国民栄誉賞)会頭特別賞受賞。
2022年、フリースクールエルートでの取り組みが、『ルポ 誰が国語力を殺すのか』文藝春秋(石井光太著)に紹介される。
<<メディア実績>>
U29出演・おはよう四国・greenz・愛媛新聞・朝日新聞・南海放送・他多数
<<講演実績>>
愛媛大学・愛媛県教育研究協議会・市内小学校・四国若者1000人会議・まつやま経営プラザ・他多数
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